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【建設DXインタビューリレー Vol.4】「ジブンゴト」のまちづくりへ - 市民と未来を描くための3D活用と共創のヒント

【建設DXインタビューリレー Vol.4】「ジブンゴト」のまちづくりへ - 市民と未来を描くための3D活用と共創のヒント

【建設DXインタビューリレー Vol.4】
「ジブンゴト」のまちづくりへ - 市民と未来を描くための3D活用と共創のヒント

まちづくりは、そこに住む人々にとって、より良い未来を築くための大切な取り組みです。近年加速する建設DXは、このプロセスをどう変え、豊かにしていくのでしょうか? 専門家だけでなく、市民一人ひとりの声が反映されたまちづくりを実現するにはどうすればいいのか。今回は、「ジブンゴト」のまちづくりをテーマに、3Dシミュレーションなどのデジタル技術が、市民と専門家の「共創」をどう後押しするのか、その可能性とヒントを探ります。お話を伺ったのは、日本大学 生産工学部 環境安全工学科の永村景子准教授。道路の景観設計から歴史的遺産の活用まで、幅広い視点から「市民参加型まちづくり」の最前線で活躍されています。

<お話を伺った方>

永村 景子 さん日本大学 生産工学部 環境安全工学科 准教授

(本記事は、日本の建設DX・建設IoTが目指すべき方向性を探る『建設DXインタビューリレー』の第四回です。)

前回のインタビューはこちら
【建設DXインタビューリレー Vol.3】「いかに楽できるか」が原点 - 建設DXの先駆者・松尾泰晴氏が語る3D活用とYDN設立秘話

未来のまちを「体験」! 3D技術が変える景観シミュレーション

進行:永村先生の研究室では、どのような活動をされているのでしょうか?

永村准教授:私たちの研究室では、デザイン事務所と協力して、実際に道路の景観設計を行うなど、実践的なプロジェクトに取り組んでいます。その中で、以前からAutodesk製品を使って3D空間を作成してきましたが、従来の3Dモデルだと、どうしても実際の空間イメージとのズレが生じ、市民の方々とのコミュニケーションに課題を感じていました。

そこで、今年から『Twinmotion』を導入したんです。これが本当にすごくて、まるで実際にその場に立っているかのような、リアルな景観シミュレーションができるようになりました。先日も、ある道路の改修計画でTwinmotionを使ったシミュレーションを地域の方々にお見せしたところ、「これなら完成後のイメージがよく分かる!」「こんなにきれいになるなら楽しみ」と、非常に好評でした。

研究室には毎年、10名程度の学生が研究室に配属されますが、そのうち2~3名は女子学生です。彼女たちはキャリアアップへの意識が高く、将来にわたって建設業界で活躍したいという意欲を持っています。研究室では、BIM/CIMの知識だけでなく、実践的なスキルを身につけることを重視しています。例えば、地元産の木材を活用した古民家のDIYプロジェクトでは、レーザースキャナーで取得した点群データを使って、地元の製材所や古民家所有者の方と学生とが空間づくりの相談やまちづくりの実践研究なども行っています。

進行:Twinmotionのようなリアルタイムレンダリング技術は、市民との合意形成において、具体的にどのような効果があると感じていますか?

永村准教授:従来のパース図や模型だけでは、専門家でない方にとって空間のスケール感や雰囲気を正確に掴むのは難しいものです。しかし、Twinmotionを使えば、まるでゲームの世界のように、その空間を自由に歩き回り、様々な角度から確認することができます。時間帯による日の当たり方や、植栽の成長後の様子などもシミュレーションできるので、「完成したら、こんな素敵な場所になるんだ」という実感を共有しやすくなりました

これにより、計画に対する市民の方々の理解度が深まり、より前向きな意見交換ができるようになったと感じています。特に、これまでの公共事業計画では、反対意見が出がちだったのが、「自分たちのまちが、こんなに良くなるなら協力したい」というポジティブな反応が増えたのは大きな変化です。

「できない理由」から「できる方法」へ - 市民が主役の公共空間デザイン

進行:先生は、道路や公園などの公共空間デザインにおいて、「つくるプロセス」だけでなく「つかうプロセス」にも市民が関わることの重要性を指摘されていますね。

永村准教授:はい。公共空間をより良くしていくためには、専門家が計画を立てて終わり、ではなく、実際にその空間を使う市民の方々が、計画段階から運営・管理に至るまで、主体的に関わっていくことが不可欠だと考えています。

ただ、「危ないからやめましょう」とか「維持管理ができないから」というように、公共空間で新しい取り組みをしようとすると、どうしても「できない理由」を探しがちです。これは行政側にも、時には住民側にも見られる傾向です。例えば、公園内にバスケットゴールを設置しようとしても、近隣住民からの騒音クレームやボール遊びの危険性を懸念して、計画段階で断念してしまう、といったケースもあります。

でも、みんなで決めたこと、みんなで管理していくものであれば、状況は変わってくるはずです。「自分たちが使う場所だから、大切にしよう」「ルールを守って使おう」という意識が生まれれば、クレームや事故のリスクも減らすことができます。実際に、公園の維持管理を地域住民が担う「パークマネジメント」の取り組みなども始まっています。

また、デザインの段階から市民が関わることで、よりニーズに合った、愛着の湧く空間が生まれます。例えば、ある道路の拡幅計画では、高校生たちにポケットパークのデザイン案を考えてもらい、それを基にデザイン事務所と設計を進めたことがあります。子どもたちの柔軟な発想から、専門家だけでは思いつかないようなユニークなアイデアが生まれることもあります。

市民参加型まちづくりを進めることで、公共空間が、より多くの人に使われる、愛される場所に近づくと信じています。道路のアドプトプログラム(※住民や団体が道路の清掃・美化活動を行う制度)やPFI(※公共施設の建設・運営などに民間の資金やノウハウを活用する手法)のように、運営まで市民が関わる形が理想ですね。たとえ些細なことでも、普段通っている道でゴミを捨てない、といったことからでもいい。「これは自分たちの道、自分たちの場所だ」と思ってもらえるような意識を、少しずつでも育てていきたいと考えています。

みんなでデザイン! デジタルが拓く、「共創」まちづくりの未来

進行:市民が主体的にまちづくりに関わるために、必要なことは何だとお考えですか?

永村准教授:まずは、自分の手で書いてみる、言葉にしてみる、ということを大切にしています。デザイナーのように自分の考えをすぐに形にできる人は良いのですが、そうでない一般の方々でも、表現することへのハードルが下がることで、状況はもっと良くなるはずです。

これまでは専門家に依頼していたようなことを、自分たちでできるようになる。それは、義務感からではなく、「やってみたい!」という気持ちから。市民が自分の思ったことをそのまま表現でき、さらにそれを専門家が昇華させて、より良い空間づくりができるようになれば、市民それぞれが、自分の意見を持ちやすくなるのではないでしょうか。例えば、公園のベンチのデザインを住民がスマホアプリで投票できたり、自分でデザインした遊具が実際に公園に設置されたり。そんな未来が、すぐそこまで来ているかもしれません。

進行:学生にデジタルツールを使わせたいと思っても、大学の環境が追いつかないという課題もあると伺いました。

永村准教授:そうなんです。大学の環境が整っていても、大学の外では使えない、という問題があります。例えば、『Civil 3D』くらいなら学生個人のPCでも使えますが、『Infraworks』などは、どうしても研究室の高性能なPCを使わざるを得ない状況です。もっと手軽に、例えば自分のスマートフォンで高度な3Dシミュレーションやデザインができれば、学生たちの学習意欲も、市民参加の可能性も、さらに大きく広がるはずです。

また、ソフトウェアのライセンスの問題もあります。高価なソフトウェアを学生全員にいきわたらせるのは難しく、授業で基本的な使い方を教えても、実際に使いこなせるようになるまでには至らないケースが多いです。クラウドベースで、必要な時に必要な機能だけを利用できるような、より柔軟なライセンス形態や、教育機関向けの安価なプランなどが充実すれば、状況は改善されるかもしれません。

デジタルツールの進化は目覚ましいですが、それを誰もが気軽に活用できる環境を整えることが、これからの「共創」まちづくりにおいては非常に重要だと考えています。

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