2017年の設立から7年、建設業界のオープンIoTプラットフォームを牽引してきたランドログ。EARTHBRAINへの統合、建設テックを取り巻く環境の変化を経て、その役割はどう変わったのか?そして、AIや自動化が注目される中、これからどこへ向かうのか? ランドログ立ち上げメンバーである関川祐市氏と、ランドログを卒業しベンチャーキャピタルで業界を俯瞰してきた明石宗一郎氏が、ランドログの現在地と未来、そして建設DXの次なる潮流を語り合います。
<対談者>
関川 祐市 さん株式会社EARTHBRAIN ランドログカンパニー ヴァイスプレジデント
明石 宗一郎 さん株式会社IncubeX Studio 代表取締役
(本記事は、日本の建設DX・建設IoTが目指すべき方向性を探る『建設DXインタビューリレー』の後編です。)
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【建設DXインタビューリレー Vol.1】ランドログ立ち上げの原点と挑戦
進行:2021年から株式会社EARTHBRAINに形を変えて、ランドログが果たしてきた役割は、どのように変化してきましたか?
関川:EARTHBRAINになっても、ランドログというブランドは残していただき、ランドログカンパニーとして活動しています。当初は、ランドログがやっていることは社内でもなかなか理解されていなかったと思います。我々はランドログプラットフォームを軸にサービスを提供し続けてきたのですが、年数が経つにつれて、新しいものを開発する際に「ランドログには専門知識を持つメンバーが多いから、まずはランドログに頼んでみようか」といった声がかかるようになりました。開発段階で「これは市場で受け入れられるでしょうか?」と相談されることも増え、そういった役割も担うようになってきたと感じています。株式会社ランドログの時代にはなかった変化です。組織が大きくなる中で、ランドログの立ち位置も変わってきたのだと思います。
進行:明石さんに伺います。ランドログを離れて見えてきたこと、今思うことはありますか?
明石:2021年にランドログを卒業し、WiL(World Innobation Lab)というベンチャーキャピタル(VC)に参画しました。もう一度、新たな価値創造の仕組みを建設以外の分野でも作りたいと思ったこと、そして大企業のジョイントベンチャーから、よりカオスなベンチャーの世界を体験してみたいという気持ちがありました。
ランドログはコマツ発のジョイントベンチャーでしたが、スケールするタイミングで、(大企業の)バックボーンを持たない純粋なスタートアップがどのようなエコシステムで動いているのか、2017年以降に数多く生まれた建設スタートアップの実際を見てみたい、その違いは何なのか、という思いでVCの世界に飛び込みました。
VCとして活動する中で、大企業の新規事業開発部門(出島)設立や、スタートアップ投資を行うCVC設立のニーズを強く感じました。大手ゼネコンもジョイントベンチャーを設立されるなど、同様の動きが見られます。ランドログの設立は、そうした流れの中でもエポックメイキングな出来事だったと再認識しましたね。
一方で、純粋なスタートアップを見ていく中で、大企業ジョイントベンチャーのメリット・デメリットも明確になってきました。比較することで多くの学びがありました。
進行:ランドログでのご経験が、今の仕事の原動力になっているかと思います。VCというフラットな視点から見て、投資テーマとして建設業界は現在どのように捉えられていますか?
明石:2017年から激動でしたね。コロナ禍もあり、私がランドログを飛び出した2021年頃は、市場に溢れた投資資金がスタートアップ業界に流れ込み、建設スタートアップもその恩恵を受けました。その後、市場の調整期間を経て、建設スタートアップの数は増えましたが、今は潮目が変わるタイミングだと感じています。次はAIの登場です。2017年頃はまだまだAIの活用は限定的でした。
今や巨大企業となったNVIDIAも、企業価値(バリュエーション)がまだ低かった頃に、ランドログではNVIDIAチップを活用してドローン測量の実験していました。それが7年でこれほどのモンスターカンパニーになったのは感慨深いですね。AI、半導体、SaaSなど様々な技術が登場しましたが、今の建設業界での注目度は、どこに行ってもAIが中心です。特に、特定のタスクを自律的に行う「AIエージェント」は、VCの注力領域の1つになっています。
2017年当時、ランドログのプレゼンで「2025年には130万人の労働者ギャップが発生する」と警鐘を鳴らしていましたが、まさに今、その状況が現実になっています。こうした背景を考えると、AIエージェントへの期待が高まるのも当然だと感じます。
また、EARTHBRAINやランドログの観点から言えば、ハードウェアに関する革新的な基盤技術、いわゆる「ディープテック」にも注目が集まるのではないでしょうか。ソフトウェアとは全く異なる知見が求められる領域です。サンフランシスコでは既に自動運転タクシーが走っていますが、2017年頃はUberの自動運転技術もまだ黎明期でした。自動化の技術がハードウェアの世界にも急速に浸透しており、これは間違いなく建設業界にも来ると予想していましたが、そのスピードは予想以上だと実感しています。自動化は間違いなく注目すべき分野です。
進行:ある意味、投資の規模感や、小規模なベンチャーが事業を広げていく戦略も変わってきているのでしょうか?
明石:そうですね。小規模なベンチャーが得意とする、限界コストの低いソフトウェア、特にSaaS(Software as a Service)は、この7年間で建設業界でも施工管理、人材マッチング、ドローン測量など、様々な分野で台頭しました。その結果、建設業界に特化した「バーティカルSaaS」によって効率化できる領域は、以前に比べて少なくなってきた印象です。これは建設業界以外でも同様の傾向が見られます。
では、この状況でどうやって新たな市場機会を創出するか。そこで重要になるのが、AIや自動化といった新しい技術の活用です。あるいは法規制の変更なども契機になりますが、技術革新が大きなドライバーになるでしょう。小規模なベンチャーも、こうした先端技術を取り込み、新たな「ホワイトスペース」を切り拓いていく時代になっているのだと思います。
進行:次は、関川さんにお話を伺います。明石さんがおっしゃったような全体の流れや、ランドログが積み上げてきた価値提供の中で、今後進めていきたいことや、関わっていきたいと考えている方々はいらっしゃいますか?
関川:基本的な考え方は設立当初から変わっていません。現場のあらゆるデータをプラットフォームに一元的に集約し、活用するという点です。ただ、現状としては、様々な企業が独自のプラットフォームを作り始め、ある意味で乱立している状態とも言え、我々にとってはそれらのプラットフォームと連携することが重要になってきています。連携が進めば、データを横断的に見ることが可能になり、業界全体としては良い方向に向かっていくと考えています。
もちろん、プラットフォーム連携には課題もあります。とくに一部の大手ゼネコンが独自に構築した大規模プラットフォームとの連携は、まだハードルが高いのが実情です。一方で、建設機械メーカーやレンタル会社、カメラメーカーなどが提供するプラットフォームとの連携は進めやすくなっています。連携するプラットフォームによって利用できる機器やサービスは異なりますが、それらを活用いただくことで、現場のデータをより網羅的に収集・活用できる世界を目指していきたいです。考え方は変わりませんが、この連携を着実に進めていくことが、今最も重要だと考えています。
進行:今までのお話を受けて、明石さんにお伺いします。今後のランドログに期待することはありますか?
明石:2つあります。1つは、ランドログが2017年から続けてきた先進的な取り組みと、それによって築き上げた市場でのポジション、ブランドは非常に強力であり、他社には真似できない価値だということです。これは卒業生としても素晴らしいアセットだと感じていますので、ぜひその強みを最大限に活かしてほしいですね。大企業の意向で途中で終わってしまう新規事業も多い中で、7年以上継続してきたこと自体が大きな財産です。
もう1つは、EARTHBRAINへの統合を経て、インキュベーション段階を終えたランドログが、ある意味で「大企業化」した側面もあると感じています。純粋なスタートアップの世界を見てきた者としては、もう一度、あの創業期の「カオス」の中から新しいものを生み出すような、再ベンチャー化を期待したい。これは決して悪い意味ではなく、どんな組織も成長過程で起こりうることです。始まりは何もない7人のランドログでした。組織が大きくなり安定期に入ると、いわゆる大企業病のようなものが生じるのは、歴史が証明しています。だからこそ、もう一度カオスな状況を意図的に作り出し、挑戦していくことが重要ではないでしょうか。メンバーは皆、貴重な経験を積んでいますし、より大きなブーストをかけられるはずです。そこに期待しています。
進行:今のお話を受けて、関川さんはいかがですか?
関川:正直なところ、あのカオス状態にまた戻りたいかと言われると…(苦笑)。もちろん、ガムシャラに突き進むこと自体が嫌なわけではありません。当時、「ランドログとしてプラットフォームビジネスをどう確立するか」を考えながら、手探りで試行錯誤していくプロセスは、大変でしたが嫌いではありませんでした。しかし、それをビジネスとして軌道に乗せるのは本当に大変でしたからね。それをもう一度やるのか、と考えると…。
企業が大きくなると、守るべきものも増え、組織として果たしなければならない役割も出てきます。それは当然、責任を持って担っていかなければなりません。ただ、自分の中では、やはりあの創業期の「楽しさ」や「ワクワク感」は忘れられないですね。「どうすればこのプラットフォームが世の中に広まるのか?ビジネスになるのか?」と、純粋に考え試していましたから、あの試行錯誤は、やはり必要なプロセスなのだと思います。今は日々の業務に追われ、そうした時間が取れていないかもしれませんが、あの時の発想や挑戦する仕組みは、意識して持ち続けなければならないと感じています。
明石:やはり、組織が大きくなると役割が細分化され、どうしても「言われたことをやる」という姿勢になりがちです。どの組織でも起こりうることだと思います。でも、あの時のランドログは、請求書も作るし、現場にも行くし、パートナー総会でお茶出しもする。誰もが、言われなくても何でもやる。そのカオスな状況を楽しみながら、それぞれが背伸びして成長していく。これこそがベンチャーの本質だと思うんです。
その精神が薄れてしまうと、ランドログがランドログでなくなってしまうのではないかと、少し心配になる時もあります。守るべきブランド、積み上げてきたものは非常に強力なので、それを活用しつつも、中の人間がベンチャースピリットを持ち続けられるか。気を抜くと、安定を求める大企業の引力に流されてしまいがちです。ですから、また何か新しい挑戦を、パートナーの皆さんと一緒に仕掛けていけると面白いのではないでしょうか。
進行:最後に、言い残したことや、今後の抱負などがあればお願いします。
関川:最近、明石さんをはじめとするランドログOBの方々と、また一緒に仕事をする機会が増え、改めて良い関係が続いていることを嬉しく思います。創業期の苦労を共にした仲間だからこそ、分かり合える部分があるのだと思います。そうした経験も含めて、ベンチャーとして挑戦して良かったと感じています。
今後についてですが、スタートアップとしての挑戦心を忘れずに、この業界のパイオニアとして、これからも皆様に「ランドログがあって良かった」と言っていただけるよう、ビジネスをしっかりと成長させていきたいです。
そして、創業期にパートナーの皆様と共にビジネスを創り上げてきたように、これからも深く関わってくださるパートナーの方々と一緒に、もう一度新たな価値創造に挑戦していきたいと考えています。
【建設DXインタビューリレー 次回予告】
次回は、初期から日本の建設DXを牽引されてきた先駆者にご登場いただき、これまでの歩みと未来への展望を伺います。
第3回は、4月10日(木)公開予定です。どうぞお楽しみに!